ひとりじゃなんにもできないぼくら。
今、仲間は渦巻く嵐になる。
ひたすら清清しい針葉樹林を一本の道が木々を縫うように走っている。
それをトレースするように一台の自転車が進んでいく。 自転車が通ったあとの地面は、一面に敷き詰められた紅葉が船の通ったあとの波のように空に舞って再び散っていった。 空はオレンジに染め上げられている。丸いオレンジが山の端に半分入り込もうとしているところで、そこから空が始まっていた。東の空は少し白みがかって藍色の背景の世界を従えた星の大群がこれからこの空を支配しようとしている。 自転車は峠に差し掛かった。 赤に黄色にオレンジ色の木々と原色の緑が交じり合ったモザイクのような森が自転車の旅人の視界の効く限り続いていた。空にまで食い込んでいるのではないかと思うほどだ。 旅人は峠のふもとのその先に人工の明かりを見つけた。 「今日はあそこにとめてもらおう」 人工の明かりの持ち主は白雪姫に出てくる7人の小人が住んでいそうな小さな木の家で、旅人がノックをすると初老の男性が微笑んで顔を出した。 「ようこそ旅人さん、さあシチューを作っておきましたよ」 旅人はかぶっていたフードを下ろしてたずねた。 「わたしはここに来たのは初めてだしあなたとの面識も無い、わたしが来ることが分かっていたような口ぶりですがあなたは超能力者なのですか」 家の主人は微笑んだまま応えた。 「こんな山奥に来るのは旅人くらいのもんだ。それに夕飯どき丁度できあがったシチューを”作っておきましたよ”って言うのは気持ちいいものですよ。」 「なるほど」 「さあ、夕食にしましょう」 紅葉を失った夜の森に一点の明かりが世界を照らす。 PR 2008/01/29(Tue) 00:27:08
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